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raul calle viticultor

by laura and raul calle, sierra de gredos

高齢化は日本だけではなく、欧州においても深刻な問題だ(2030年までにスペインでは人口の25%が60歳以上になると予想されている)。また都市集中型の経済がもたらす地方部の過疎化は悲惨で、スペインの田舎を旅行したことのある人は分かると思うけれど、とにかく田舎には暗い顔をしたジジババしかいない。裕福ではない農家の子供たちは皆(田舎でぶどう造りなんてダサいし儲からないし) マドリドやバルセロナに出ていってし まうのだ。気持ちは分かる。都会の我々は田舎でワイン造り、などとつい夢を見てしまうけれど、もしそれが人生のすべてだと告げられたらどうか。夢を見ることを許されず、それがお前の人生の宿命なのだといわれたらどうか。広大なスペインの田園風景、ぶどう畑に沈む夕陽は息をのむ美しさだけれど、ある若者の眼にそれは延々と繰り返される、絶望的な景色のように映っているのかもしれない。


話題を変えよう。田舎に魅せられた人々の話だ。ラウル・カイエと奥さんのローラ、彼らはマドリド生まれのマドリド育ち。ちゃきちゃきの都会っ子である彼らもまた絶望していた。都会にだ。“消費社会に身を置く事、それはそのまま自らの人生をも消費してしまう事なんだ” 息子のブルーノくんの手を引くラウルとぼくらは畑を歩いていた。マドリドでの日々、夫婦お互いが仕事に忙殺されるなか、ある時から地方への移住を考え始めた。もともと大学で農学を学んでいたことから、スペイン中央部の過疎地で問題となっている農作放棄地に関心を寄せた。視察にきたラウルは荒れ果てたぶどう畑をみてこれだ、と思った。彼にはどうすればこの見捨てられたぶどう樹が甦るか、一目で判っていた。ワイン造りに関しては知識も経験もなかったけれど、まあその後のことはそのあと考えればいい。妻の説得に時間は掛からなかった。2012年、2人がアヴィリャの外れの小さな集落にやってきた年だ。同じ年に生まれたブルーノくんも6歳になった。近い未来、青年へと成長した彼の眼に、父親のぶどう畑はどう映るのだろう。


ワインメイキングについて、特に話すことはない。とラウルはいう。じゃあやっぱりぶどう?ときくと、ちがう、土だ。という答えが返ってきた。 まず思い出したのはペネデスのフィンカ・パレーラだった。ルベンのヴィンヤードと同じく、ラウルの畑も表土がコンポストで覆われていて、油断しているとこける。そのくらい柔らかいのだ。いくつかの区画を見せてもらううち、彼のいう健康な土と体調の悪い土の違いが少しだけわかる ような気がしてくる。信じてもらえなくてもいいけれど、それは目に見えない“気のながれ”のようなものなんだと思う。ちょっといよいよスピリ チュアルじみてやばそうなことを言い始めるけれど、でもそもそも僕らの目には見えない小さな、様々な有機物が動き廻るこの自然界で、目に見えるものだけを信じているほうがずっとやばいんじゃないかとも思う。土を蘇らすのはもちろん簡単な作業ではない。乾燥した表土を掘り起こし下層の湿った部分と混ぜ合わせ、シリアルと窒素分の活性化を促すハーブを満遍なく植え3年ほど待つ。ラウルの言葉を借りると“土が呼吸しはじ めたら”またすべての土を混ぜ合わせ、オリジナルのコンポストを全体に撒いていく。“治療中”の区画からはもちろん収穫をしない。現状彼らの生 産量は年間2000本のみ。冗談ではない。2000本だ。途方もないチャレンジを続けるラウルに、今このタイミングで出会たことはすごくラッキーだ。