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microbodega del alumbro

by juan jose moreno garcia, zamora

ラウル・カイエから “サモラにすごいワイン造ってるオヤジがいる” と教えてもらってわざわざこんな田舎まで来たのだった。またオヤジかよと思っていたのはともかく、車を走らせる。願いはいつだって叶わない。北部特有の古い石の建物が、車窓を次々と通り過ぎた。
 

サモラは比較的しゃんとした街だけれど、指定された住所はサモラ近郊、古い教会がぽつんとあるだけの恐ろしく静かな村だった。誰もいない。ジジババすらいない。陽は既に傾きはじめていた。さてどうしたものかとうろうろしていると、小さな菜園でナスを収穫しているオヤジがいて、恐る恐る道をきいてみるとなんとそのオヤジこそが目当ての人物、ファンホ・ベレッテだった。近づくと彼のシャツはどろんどろんに汚れていて、万がいちにもハグされない位の距離を保ちながら、慎重に挨拶をした。豪快な握手だった。堆肥と汗のにおいで目がちかちかした。ファンホ・ガルシア。彼のワインがすごいのかどうか、はっきり言って今でもよくわからない。紹介してくれたラウル・カイエも “飲めばわかるよ” としか言わなかった。ぼくは飲んでもよくわからなかった。アルンブロのワインはそのあまりの生産量の少なさにマドリドのカヴィストでも飲んだことのない人がほとんど。というか、会ったことすらない人がほとんどだという。展示会には殆ど参加しない。フランスだとそういうのはなんだか伝説の造り手的な扱いになるけれど、どうにもファンホさんはそういうかんじに見えなかった。


醸造学的には欠陥の多いものだと思う。本人も自分でそう言っている。俺のワインクサいよな、と。揮発酸の値は高く、一部の赤ワインからは硫黄の匂いがする。ちょっと動物的な、なまめかしいニュアンスもある。確かにクサい。そのとおり。それでも彼のワインにはどことなく懐かしさというか、ほっとするような味わいがあった。自然な甘みや、酸味があった。自然なというか、もともとの、という感じだろうか。果実が木に生り、熟して、地面に落ちる。ある種のバクテリアが果皮に住みつき、果肉の細胞がその形を変えていく。人が収穫したものではなくて、自然に木から落ちたフルーツを齧るような、そんな味だ。
 

結局その日はファンホさんの家のすぐそば、ぶどう畑の真ん中にあるコテージに泊めてもらった。夕食はホウレンソウ入りの卵焼きと少しのチーズ、そしてアルンブロのワインだった。もてなしてもらっておいてあれだけれど、なかなか質素なかんじだった。酒が入ると、ファンホさんは日本の文化や政治について持論を語った。幾分ステレオタイプなところがあったので、いくつかの指摘をぼくはした。それは違う、と。反論されるかと思ったら、そうか。そうなのか。といってファンホさんはおおきなあくびをした。隣にいた奥さんがファンホさんの膝をぱしと叩いた。でもぼくももう眠かった。静かな夜だった。ほとんどワインの話はしなかった。翌朝、彼は手書きで来年までの瓶詰スケジュールと価格をメモしてくれていた。シャワーを浴びたばかりだからかもしれないけれど、初めてファンホさんがちゃんとしたワインの造り手に見えた。
 

今回の入港分は白のみ。2種類の異なる仕込みによるものだ。来年には数の少ない赤ワインとロゼを輸入できると思う。テクニカルな事とか、そういうのはあえてここに記さない。たぶん、そういうワインじゃないとぼくは思っている。というか、ぼくも彼のワインのことがよくわかっていないのだ。自分の言葉で説明できないものを輸入するのは初めてだし、インポーターとしては失格だと思う。それでも彼のワインを紹介したいと思う。田舎の、気のいいオヤジのクラフトワイン。ただそれだけ。伝わる人だけに、きちんと伝われば嬉しい。